東京地方裁判所 平成11年(ワ)6181号 判決
原告 株式会社アドイン研究所
右代表者代表取締役 佐々木浩二
右訴訟代理人弁護士 西尾孝幸
宮崎敦彦
真貝暁
谷原誠
岩島秀樹
被告 株式会社インターナショナルランゲージアンドカルチャーセンター
右代表者代表取締役 宮川敬子
右訴訟代理人弁護士 太田治夫
主文
一 被告は、原告に対し、金一三六五万円及びこれに対する平成一一年二月二七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。
二 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二六二五万円及びこれに対する平成一一年二月二七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1(一) 原告は、コンピューターのソフトウェア及びハードウェアのシステムの調査研究開発設計製造販売等を業とする株式会社である。
(二) 被告は、外国語の翻訳及び通訳等を業とする株式会社である。
2 被告は、情報処理振興事業協会(以下「IPA」という。)による通産省後援の公募事業である「教育の情報化推進事業」に関し、大学・企業連携による実習訓練プログラムの運用を支援する情報処理システムである「インターンシップ支援システム」(以下「本件システム」という。)の開発・運用事業の申込みを企図し、平成一〇年六月八日、被告代表者は、IPA関連のシステム開発の実績をもつ原告を訪れ、原告代表者との間で、IPAに対する本件システムの提案及び開発について協議を開始した。
3 原告は、平成一〇年六月一二日、被告に対し、「インターンシップ推進支援システム開発事業計画」と題する提案書(乙二。以下「本件提案書」という。)を提出した。
4 被告は、平成一〇年九月一日、IPAに対し、本件システムにつき「教育の情報化推進事業・テーマ申請書」と題する書面(乙三。以下「本件申請書」という。)を提出してIPAの公募に応じた。
5 IPAは、審査の結果、平成一〇年一一月四日、本件システムにつき被告の提出した本件申請書を採用した(乙六)。
6 被告は、平成一一年一月一四日、原告に対し、本件システムに関する共同関係を解消するよう申し入れ、原告は、これを承諾した(以下、この合意を「本件共同関係解消合意」という。)。
7 原告は、平成一一年二月五日付けの書面により、被告に対し、本件共同関係解消に伴い、同月二六日までに二六二五万円を支払うよう催告した。
8 被告は、IPAに対し、平成一一年二月二六日付けで本件システムの開発につき基本計画書を提出し、その後も、開発事業を継続した(乙二三、二四)。
二 争点
1 原告の主張
(一) 原告は、平成一〇年六月ころ、被告の依頼により、次の業務を行うことを承諾した。
(1) IPAに提出する本件システム提案資料の作成作業
(2) 本件システムの開発作業
(3) 本件システムの実証実験に関する支援作業
(二) その後、原告は、IPAへの応募期間に間に合わせるため直ちに右提案資料の作成作業を開始し、被告代表者との打合せを重ねながら、通産省及びIPAの公募説明会への出席、通産省及びIPAへの提案書内容の説明等を行いながら、公募提案書等の提出資料を作成し、右作業を完了した。
(三) また、原告は、被告がIPAに提出した提案書(本件申請書)において同年一二月よりデータ投入を開始することになっていたため、平成一〇年九月一日、被告との合意により本件システムの開発作業を開始した。
(四) 被告は、本件共同関係解消合意に際し、原告に対し、右(二)の作業に対する対価及び右(三)の開発作業のうち原告において実施済みの作業に対する対価相当額の違約金(消費税相当額を含む。)を支払うことを約した。
(五) 原告が被告から請け負い、平成一一年一月一四日までに実施した作業及びその対価は、次のとおりである。
(1) IPA提出資料(提案書、ヒアリング資料及び実施計画メモ)の作成作業並びに関係者打合せ作業
作業延べ数量 三人月
作業数量一人月の単価 金二〇〇万円
作業代金 金六〇〇万円
(2) 本件システムに関する機能設計・構造設計・開発・調査の各作業
作業延べ数量 一九人月
作業数量一人月の単価 金一〇〇万円
作業代金 金一九〇〇万円
(3) 合計金二五〇〇万円(消費税相当額一二五万円)
(六) よって、原告は、被告に対し、違約金二六二五万円及びこれに対する催告期限の翌日である平成一一年二月二七日から支払済みに至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をすることを求める。
2 被告の主張
(一) IPAの公募した前記事業は、システムの開発及びその実験事業であり、被告は、原告に対し、その応募申請に際し、申請書を共同して作成することを委託したに過ぎない。
(二) 被告は、平成一〇年九月一日の時点でも、また、それ以降も原告との間で本件システムの開発作業に着手することにつき合意をしたことはない。
(三) 被告は、本件共同関係解消合意に際し、本件システムの開発作業のうち原告の実施済み部分に対する対価又はこれに相当する違約金を支払うことを約したことはない。
(四) 原告及び被告が共同で作成した本件申請書、ヒアリング資料、実施計画メモ等の分量及び内容並びに打ち合せの回数等に照らし、原告の主張する作業数量は過大であり、作業単価二〇〇万円も高額に過ぎる。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
一 証拠(甲四五ないし四七、乙一ないし三、証人早川光春、原告代表者、被告代表者)と弁論の全趣旨によると、原告は、被告の提案を受けて平成一〇年六月一二日、本件システムの開発事業計画を記載した本件提案書を作成し、それを被告に交付したこと、被告は、これを受けて原告と共同して本件申請書を作成しIPAに提出したこと、本件提案書においては、原告及び被告が本件システムを共同して開発し、実証実験も共同して行う旨記載されており、本件申請書においても本件システムの開発と実証実験で発生する改善は原告が行う旨記載されていること、以上の事実が認められ、これらの事実によると、原告と被告は、平成一〇年六月一二日ころ、共同事業として、IPAの前記事業に応募した上、採用された場合には共同して本件システムを開発し、かつ、実証実験を共同して実施するとの合意の下に本件申請書の作成作業に取りかかったものと認められる(以下、右合意の対象となった事業を「本件事業」という。)。
したがって、原告と被告は、右の範囲で共同事業の合意をしたものと認めるのが相当であり、その関係を被告からのIPA提出資料の作成の依頼及び本件システムの開発の依頼という個別の契約関係と見るのは相当ではない。
もっとも、本件事業への応募は被告の名前で行っているので、IPAとの契約においては当事者は被告のみとなるが、原告と被告との間の契約関係が右の共同事業であるとの実質に差異はないというべきであり、原告が被告に対し本件システムの開発につき契約書の作成を要求したこと(甲二三、二四、四五、四七、証人早川光春、被告代表者)も、実質的には、共同事業者間の役割分担とIPAから支払われる対価の分配に関する合意を求めたものと解するのが相当である。
二 次に、証拠(乙三)によると、被告が平成一〇年九月一日にIPAに提出した本件申請書には、同年一二月から実証実験を開始する旨記載されていたことが認められ、右の事実と証拠(甲一六、四五ないし五一、証人早川光春、原告代表者)によると、原告は、未だIPAから提案を採択されてはいなかったが、共同事業者としての立場から右実証実験に間に合わせるために同日ころから先行作業として本件システムの開発に着手し、被告は、遅くとも同月一六日ころには、そのことを知っていたものと認められる。
なお、証拠(甲一七、四七、証人早川光春、原告代表者、被告代表者)によると、原告は被告に対し本件システムの要件定義書の提出を求めたが、被告はこれを提出しなかったことが認められ、証拠(乙二二)によると、被告とIPAとの開発請負契約は平成一一年一月一二日付けで締結されたことが認められるが、原告が先行作業として本件システムの開発行為の一部を行う場合には、それらが必須のものであるとは言えないから、それらの事実は、右の認定を妨げるものではない。また、証拠(甲三七の1、2)によると、原告は、平成一一年一月六日、被告に対し、契約締結条件として請負総額を五五〇〇万円とする案を提示し、その際、同年二月一五日までに被告から本件システムの機能仕様書の承認を受けてプログラミングに着手する旨申し入れたことが認められるが、右の事実は、前示のように原告が先行作業として本件システムの開発作業を開始していたことと矛盾するものではない。
三 次に、証拠(甲三七ないし三九の各1、2、四〇、四一、四五ないし四七、乙一、一九、原告代表者、被告代表者)によると、原告と被告との共同事業は、IPAから本件事業に関し被告に支払われる代金のうち、原告の取り分となる本件システム開発費をいくらとするか、原告が実証実験に関与するかどうかという点で意見の調整がつかず、そのため、被告代表者は、平成一一年一月一四日、原告代表者に対し、被告が本件事業を継続することを前提として、原告が本件事業から降りることを求め、原告代表者もこれを了承し、本件共同関係解消合意をしたことが認められる。
そこで、右合意に際し、原告がそれまでに行った作業の清算につきどのような合意が成立したかについて見るに、原告代表者は、被告代表者に対し、「かかった費用は、清算をしなければならないですが、いいですね。」と述べ、被告代表者は、「いいです。」と述べた旨供述し、これに対し、被告代表者は、「原告代表者からそれまでの作業につきお金を支払うように求められた。私は、それまでにかかった費用があれば、支払う用意がありました。しかし、ソフトの開発はまだ頼んでいなかったので、ソフトの開発費については一切払うつもりはありませんでした。」との趣旨の供述をする。
そこで、右の各供述について検討するに、前示のとおり、原告は、右の時点では、本件システムの開発を先行作業として行っており、被告はそのことを知っていたのであるから、原告代表者が「これまでかかった費用の清算を求める。」との要求をした際に、原告代表者がIPAへの提出資料の作成作業に関する費用の清算のみを要求していると理解したというのは不自然であり、むしろ、共同事業の解消の経緯からすれば、被告代表者にとっても、原告が提案資料作成の対価のみを受領することにより本件事業から降りると述べているのではなく、それまでに先行作業として行った本件システムの開発作業の費用をも請求する趣旨であることは十分理解できたし、また、理解していたものと認められる。
したがって、右各供述における清算の合意により、原告と被告との間で、先行作業として行われた本件システムの開発作業を含め、原告が本件事業につき行った全作業につき適正な評価をして相当と認められる金額の清算をする旨の合意が成立したものと認めるのが相当である(原告は、これを違約金と表現しているが、法的評価の誤りであり、右合意の趣旨は、右のとおりに解すべきである。)。
四 そこで、原告が本件事業につき行った作業の適正な清算額について検討する。
1 まず、IPAに提出した資料(乙三、五、二一)の作成に関する作業については、本件事業を継続した被告において実質的に利益を得た作業であるから、これを独立して原告に依頼していた場合の対価相当の評価をするのが相当である。
ところで、原告は、右作業を、単価・二〇〇万円、数量・三人月として六〇〇万円と見積もっているが(甲四四の1、2、原告代表者)、基本計画書(乙二四)を納品するまでの開発作業に対するIPAの代金が四二七万八〇〇〇円であったこと(乙二二)、原告は基本計画書の作成には関与していないこと、提案資料の作成には被告も貢献していることからすると、右作業を原告に独立して依頼したものと評価すべきであるとしても、その額は四〇〇万円と認めるのが相当である。
2 次に、証拠(甲四八ないし五一、証人早川光春、原告代表者)によると、原告は、先行作業として本件システムの開発を行い、システムの機能設計、構造設計、開発、調査を行ってある程度システム(ドキュメント・ファイル四冊、プログラム・CD一枚)を完成させていたことが認められ、原告は、その作業を単価・一〇〇万円、数量・一九人月として一九〇〇万円と見積もっている(甲四四の1、2、原告代表者)。
しかし、右作業は、先行作業として行われたものであって、被告から要件定義書も提出されていなかったこと、しかも、その作業に被告はほとんど関与していないかったこと(被告代表者)、IPAとの請負契約が締結されていない段階のものであったことからして、右の成果物は、当然にその後に大幅な変更を必要とするものであったものと認められる。
そうすると、前示のとおり、原告が最終的に本件システムの開発費用を五五〇〇万円(消費税相当額を含む。)と評価していたこと(甲三七の2)、システムは、完成後も必ずデバッグ(補修)の必要が生じ、本来ならそれにかなりの労力を注がなければならないこと、成果物は未完成であって被告においてこれを利用することは事実上不可能であったことを考慮すると、右の開発作業に対する評価額は九〇〇万円と認めるのが相当である。
3 右1、2において判示した合計額一三〇〇万円に消費税相当額を考慮すると、被告が清算金として原告に支払うべき金額は、一三六五万円となる。
第五結論
よって、原告の請求は、約定による清算金一三六五万円及びこれに対する支払催告期限の翌日である平成一一年二月二七日から支払済みに至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡久幸治)